Mt. Nabekura

長野県と新潟県の県境をなす関田(せきだ)山脈は、標高1,000m程度のなだらかな山脈です。冬季には、日本海で水蒸気をたっぷりと吸い込んだ北西季節風がこの山脈に最初にぶつかり、大量の雪を降らせます。飯山市は日本でも有数の豪雪地帯として知られており、ここでは北に一里(約4km)進む毎に一尺(約30cm)の積雪が増える「一里一尺」という言葉が古くから伝わり、この関田山脈の主峰である鍋倉山(1,288m)には、真冬で8mもの積雪がもたらされます。このような厳しい環境の下、自然と人は長年に亘り共存し、逞しく生きてきました。鍋倉山麓に住む人々はどのように暮らしを営んできたのか、なぜ鍋倉山は多くの人々を惹きつけ魅了するのか。特に、鍋倉山に造詣の深い、地元飯山に住む3名の方々にお話を聞いてみました。

それぞれの鍋倉山

豊かなブナの森が残る鍋倉山。その魅力を「麓の集落に住む人」「写真家」「スキーヤー」の方にお伺いしました。

それぞれの鍋倉山

温井集落 樋口一郎さん

鍋倉山の麓にある温井集落で生まれ育った樋口さん。お話しを聞く中で印象的だったのが、鍋倉山は「ろくでなしの山」という一言。全国的に見ても屈指の積雪量を誇る関田山麓の冬を指して集落の方が言った言葉だそうです。言葉通りにとると、鍋倉山は麓に雪を降らせるだけの存在のように思えますが、その森を形成するブナの保水力は麓の集落や平野部に欠かせない存在です。江戸時代に作られた関田峠近くの茶屋池を水源とする「平用水」(平堰)は当時天領であった常盤平(現在の飯山市常盤地区)の米作りにおける水不足を解消するために造られました。また、昭和後期にはスキー場開発や営林署による鍋倉山の国有林の伐採計画が持ち上がりましたが、ブナの持つ保水力の大切さを知っていた住民や関心ある人々によって反対運動が起き、計画は中止となりました。もし、その時に中止とならなかったら今の環境はなかっただろうと樋口さんは思い返します。

温井集落 樋口一郎さん

雪国の生活の知恵「タネ」

右の写真で樋口さんの視線の先にあるのは「タネ(雪だね)」と呼ばれ、鍋倉山からの水が豊富に得られる山麓部ならでのものです。雪が落下する軒下に、家の周囲を囲むようにして掘られた池で、消雪の役目を果たしています。「タネ」は「タネ井」という言葉が変化したものであり、「米の種であるもみを浸し発芽させた事」が名前の由来とのこと。現在はコンクリートで固められたタネがほとんどですが、樋口さんのお宅は土を掘り縁の部分を石で固めてあります。どこの家でも通年見られるものですが、昔は雪が降る前に掘り、雪が解けると埋めることを繰り返していたそうです。
このように、鍋倉山を取り巻く環境がもたらす雪やブナ林からの水資源は麓の住民にとっては欠かせない生活の一部となっており、様々な形で恩恵をもたらしています。

雪国の生活の知恵「タネ」

写真家 星野秀樹さん

鍋倉山の近くにある羽広山集落に住む星野さん。移住者であり、写真家でもある星野さんが感じる鍋倉山の魅力とは。まず、鍋倉山は、山というよりは、「森」としての魅力があるとのこと。山歩きは、登って下るが基本となっているが、「森」はどの方向に行ってもいいし、登るも下るも自由、いわば四次元的な楽しさがあると話してくれました。そして、数ある森の中でも、鍋倉山の大部分を占めるブナの森は、季節や天候によって見え方が大きく変わるため、実際に近くで暮らし、風景を見てみたくなったといいます。特に、星野さんがいいと思うのは、樹幹流となって滴り落ちる雨の森や、どこまでも広がりを感じさせる霧の森。ブナは雪なども含め「水」と不思議と調和するとのこと。それは、ブナの樹肌にもあらわれており、菌類と雨などによって運ばれてくる海の藻類で構成される「地衣類」が付いて、模様になっていると教えてくれました。海も森も山も「水」で繋がっており、それを感じさせるブナの森。鍋倉山の魅力を語る上で、ブナと水は欠かせないものかもしれません。

写真家 星野秀樹さん

スキーヤー 堀田学さん

「鍋倉の森を滑る」ことの虜になったという堀田さん。雪のない場所で育った堀田さんが、大学卒業後に飯山市に移住し、初めて鍋倉山に行ったのは、15年前のブナの芽吹きの頃でした。温かな陽気の中、新緑の陽光の下で滑った爽快感は忘れられないとのこと。それ以来、地の利をいかして時間を見つけては、年に10回以上、鍋倉山に滑りに行っているそうです。滑り手にとって鍋倉随一の斜面は、山頂から西の沢への斜面。樹勢のあるブナの巨木が程よい樹間で並び、滑るのに適した斜度がボトムまで続きます。北アルプスや妙高山域のような無木立の大斜面はありませんが、ブナの森を滑るには格別と語ってくれました。

スキーヤー 堀田学さん

早朝ならではの光景

特に、堀田さんが一番好きな時間は、色の変化を感じられる早朝。最初はヘッドライトの明かりのみでブナと雪のモノトーンの世界から始まりますが、登るにつれて空が赤く染まり初め、山頂で朝を迎えるのです。その朝日に向かってサンライズビーチと名付けた山頂直下の台地を滑走する時は、言葉で言い表せないくらい素晴らしいと教えてくれました。
このように鍋倉山は、多様で素晴らしい滑走シーンを提供し、訪れたものを魅了してくれます。その魅力から多くの方が訪れるようになり、ごみのポイ捨てなどの問題が起こってきています。守るべきものを守りつつ、時の流れと変化に合わせて、滑り手と鍋倉の森が共存していけるように、堀田さんは、今後も「鍋倉の森を滑る」ことを続けていくそうです。

早朝ならではの光景<br />

鍋倉山をもっと詳しく

鍋倉山の巨木(森太郎)

森太郎は、鍋倉山の中腹にある、通称「巨木の谷」に立っています。昭和50年ころ地元の人々が、とても大きく立派なブナの木の1本に「森太郎」と名付け、それから親しまれてきました。その推定樹齢は400年以上。2004年、林野庁によって全国の国有林のなかから、100本の巨樹・巨木を選んだ「森の巨人たち百選」にも選ばれた巨木です。ブナの寿命は最長でも400年ほどと言われており、森太郎もこの先、長くはないと考えられています。それほど遠くない将来に森太郎は土に還り、そして、新たな若木の生存競争が始まることでしょう。巨木の谷を歩き、悠久の時の流れを肌で感じ、ブナの森の自然の摂理と、森がもたらす水と人との関係に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

鍋倉山の巨木(森姫)

真っすぐ伸び、しなやかで気品あるブナだったことから「森姫」と命名されましたが、2011年7月の調査で、完全に枯死していることが確認されました。樹齢は300年とも400年とも言われています。登山道から近く、人が近づきやすかったため、根本が踏み固められてしまい、これが枯死を早めた原因ではないかと言われています。

いいやまブナの森俱楽部について

「森太郎」「森姫」に続きいくつかのブナの巨木が見つかり、これらが集まる通称「巨木の谷」には多くのハイカーが入山するようになりました。比較的気軽に原生的なブナの森を見ることができる点が来訪者増加の要因の一つでした。入山者が集中し、特定のブナの巨木の根本が踏み固められてしまったことで、いくつかの巨木の樹勢は衰え、人々が近づきやすい「森姫」は季節はずれに落葉したり、キツツキに穴を開けられ、枝先が枯れてきていました。このままでは「森姫」だけではなく、「森太郎」が倒れてしまうのも時間の問題ではないかと危惧し、鍋倉山の保全活動を目的に2000年に「いいやまブナの森倶楽部」が発足しました。活動にご協力いただけるボランティアや活動継続のための寄付金も受け付けています。100年先のブナの森を残すため、みなさまのご協力をお待ちしています。

環境教育の場としての利用

いいやまブナの森俱楽部主催

地元の小学校と連携して、自分たちの里山を知るフィールドワークを毎年行っています。
なべくら高原・森の家内の「ブナの里山こみち」(小学1~2年生向け)と「巨木の谷遊歩道」(小学5~6年生向け)をガイドと一緒に歩いて、植生や里とのつながりを学びます。

巨木ブナの保全活動

いいやまブナの森俱楽部主催

ブナに限らず、樹木の張る根は意外に浅く、根回りが踏み固められることは衰弱を早める原因となります。そのため、巨木ブナの根回りに人が立ち入らないように、毎年雪解け後にロープや看板の設置を行っています。
また、樹木医を招いて巨木の往診も行っています。樹齢400年とも言われる「森太郎」や牧峠付近にある「鬼ブナ」を対象に、樹勢の変化を調べています。特に鬼ブナに関しては、歩道造成による樹勢への影響がないかどうかを調べるためにも非常に重要な診断とされています。

ブナ材の活用

いいやまブナの森俱楽部主催

巨木の谷遊歩道の整備時に生じた支障木や倒木を使用して、飯山市内在住のクラフト作家さんに加工・制作していただき、なべくら高原・森の家で販売しています。
各々の商品によって模様の出方が違います。ぜひ、森の家にお越しの際にはお手に取ってみてください。

・バードコール
鳥・きのこの形をしたとてもかわいらしいバードコールです。1つ1つ音色が違うので、好きな音のものを探すのもいいのでは。自宅にいながら森の中の気分を味わえます。
(鳥の形のバードコールの売り上げの一部はいいやまブナの森倶楽部に寄付されます。)

ブナの巨木を訪ねるツアー

所要時間4.5時間

なべくら高原には美しいブナの森があります。そんな、なべくら高原が誇る巨木「森太郎」に会いに行きましょう。樹齢300年を超えるブナがあなたを待っています。出発地点である巨木の谷駐車場から標高1028mの「森太郎」までの標高差は約150m。道中、急な登りが含まれますので、健脚の方にオススメです。(車送迎往復50分を含む)

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